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ベトナムでのオフショア開発とは?メリット・課題・成功のポイント完全ガイド

グローバル化が進む現代において、コスト削減と開発リソースの確保を両立する手段として、オフショア開発への注目が高まっています。なかでもベトナムは、その成長するIT産業と親日的な国民性から、日本企業のオフショア開発先として急速に存在感を増しています。

近年、中国への過度な依存を分散する「China+1」戦略の文脈でも、ベトナムは重要な選択肢として位置づけられています。加えて、政府主導の人材育成政策やデジタル変革への積極的な取り組みにより、ベトナムのIT産業は質・量ともに飛躍的な進化を遂げています。

しかし、オフショア開発には距離や文化の違いに起因する課題も存在します。本記事では、ベトナムでのオフショア開発について、最新の市場動向から具体的なメリット、直面しうる課題、そして成功に導くための実践的なステップまで、包括的に解説します。

ベトナムオフショア開発の最新動向と今後の展望

ベトナムでのオフショア開発の最新動向や今後の展望について解説します。

  • ベトナムIT産業・オフショア市場の成長動向
  • 日本企業における「China+1」戦略の文脈でのベトナムの位置づけ
  • 次世代技術(AI・クラウド・DX)対応と人材育成政策の影響

ベトナムIT産業・オフショア市場の成長動向

ベトナムのIT産業は着実な成長を続けています。国内には現在50万人を超えるIT人材が存在し、毎年約5万人から6万人のIT系卒業生が市場に供給されています。

オフショア開発市場においても、ベトナムは着実に存在感を高めています。オフショア開発委託先として、ベトナムは数年連続で第1位です。従来は中国やインドが主流でしたが、近年では日本企業のオフショア委託先として、ベトナムが最も選ばれる国となっているのです。

日本企業における「China+1」戦略の文脈でのベトナムの位置づけ

近年の地政学的な不確実性の高まりを受けて、多くの日本企業が「China+1」戦略を推進しています。ベトナムは、この戦略における最有力候補の一つとして注目されています。中国と陸続きで物流面でのアクセスが良好であることに加え、ASEAN諸国の中でも政治的に安定しており、外資系企業に対する投資環境が整備されています。

製造業のみならず、IT開発においても同様の戦略が展開されていることにも注目すべきです。システム開発やアプリケーション保守を中国の拠点に集中させていた企業が、リスク分散の観点からベトナムへの移管や分散配置を進めているケースが増加しています。ベトナムは単なる代替拠点ではなく、独自の強みを持つ戦略的パートナーとして評価されているといえるでしょう。

次世代技術(AI・クラウド・DX)対応と人材育成政策の影響

ベトナム政府は、積極的なデジタル変革政策を推進しています。国家デジタルトランスフォーメーションプログラムでは、教育機関におけるIT教育の強化、先端技術分野の研究開発支援、国際的なIT企業の誘致などが盛り込まれています。

こうした政策の効果は、オフショア開発の現場にも表れています。従来の受託開発やシステム保守に加えて、AI開発、クラウドネイティブアプリケーション開発、IoTシステム構築といった高度な案件を手掛けるベトナム企業が増加しています。特にクラウド技術分野では、GCPやAWSといった大手パブリッククラウドのスキルを持つエンジニアへの需要が高まっており、給与水準も上昇傾向にあるのです。

日本企業にとって、ベトナムオフショアは単なるコスト削減手段ではなく、最新技術を活用した開発パートナーとしての価値を持つ存在になりつつあるといえるでしょう。

ベトナムでオフショア開発をおこなうメリット

ベトナムでのオフショア開発のメリットについて解説します。

  • 人件費・運用コストの削減
  • 優秀な若手IT人材・日本語人材の豊富さ
  • 時差・地理的近さ・文化的親近性
  • 品質・技術力の向上と開発体制の成熟化

人件費・運用コストの削減

ベトナムオフショア開発の最大の魅力は、人件費の低さにあります。ベトナムの人月単価はプログラマーが約39万円、シニアエンジニアが約48万円、ブリッジSEが約59万円、プロジェクトマネージャーが約70万円程度といわれています。一方で日本国内でエンジニアを雇用する場合、初級SEでも人月単価60万円から80万円が相場であることを考えると、ベトナムのコスト優位性は明確です。

また、2024年時点でのベトナムエンジニアの平均給与は月額約13万円といわれています。

日本のITエンジニアの平均月収は約40万円ですから、ベトナムでは日本の3分の1程度のコストで人材を確保できる計算になります。

こうした総合的なコスト優位性により、同じ予算でより多くのリソースを開発に投入できるため、開発スピードの向上や機能拡充にもつながるでしょう。

優秀な若手IT人材・日本語人材の豊富さ

ベトナムには、理工系教育に強みを持つ大学が数多く存在します。キャピタルアセットマネジメントのレポートによると、ベトナムにはITおよび関連分野を教える大学が少なくとも108校あります。中学2年生からソフトウェアコーディングやIT科目の授業が始まるなど、早期からのIT教育が実施されており、プログラミングやアルゴリズム開発に適した基礎能力を持つ人材が豊富です。

さらに特筆すべきは、日本語を学習するベトナム人の多さです。ベトナムでは日本語が英語、中国語に次いで人気の外国語となっており、多くの大学で日本語学科が設置されています。IT企業の中には、社内で日本語教育プログラムを提供し、日本向けプロジェクトに対応できる人材を積極的に育成している企業も少なくありません。技術力と日本語力を併せ持つブリッジ人材の存在は、プロジェクト管理の円滑化に大きく貢献するでしょう。

時差・地理的近さ・文化的親近性

ベトナムと日本の時差はわずか2時間です。この時差の少なさは、リアルタイムでのコミュニケーションを可能にし、オフショア開発における大きな障壁を取り除きます。午前中に日本側から依頼や質問を送れば、同日の午後にはベトナム側から回答が得られるため、開発サイクルの遅延を最小限に抑えられるのです。

地理的な近さも見逃せないメリットです。日本からベトナムまでは直行便で5時間から6時間程度であり、必要に応じて現地訪問が容易におこなえます。文化的な親近性も重要な要素です。ベトナムは歴史的に日本との交流が深く、親日感情が強い国として知られています。勤勉で真面目な国民性は日本人のビジネス感覚と相性が良く、契約や納期に対する責任感も高い傾向にあるでしょう。

品質・技術力の向上と開発体制の成熟化

ベトナムのオフショア開発企業は、品質管理体制の整備に積極的に取り組んでいます。多くの企業がISO9001やISO27001といった国際規格の認証を取得しており、CMMI(能力成熟度モデル統合)レベル3以上を達成している企業も増加しています。こうした品質マネジメントシステムの導入により、開発プロセスの標準化と品質の安定性が実現されているのです。

技術力の面でも、ベトナムのIT企業は着実に進化しています。従来の受託開発やシステム保守に加えて、クラウドネイティブ開発、マイクロサービスアーキテクチャ、DevOps実践など、最新の開発手法を取り入れる企業が増えています。開発体制の成熟化も進んでおり、要件定義段階から参画し、技術的な提案や改善案を積極的に提示するベトナム企業増加傾向です。

ベトナムオフショア開発の主な課題やリスク

ベトナムでのオフショア開発の課題やリスクについて解説します。

  • コミュニケーション・言語・文化のギャップ
  • 現地パートナー選定・統制の難しさ・ガバナンスの欠如
  • 技術レベル・マネジメント成熟度のばらつき
  • 契約・知財・データ保護の法的/制度的留意点

コミュニケーション・言語・文化のギャップ

言語の壁は、オフショア開発における最も一般的な課題の一つです。ベトナムでは英語や日本語を話せる人材が増えているとはいえ、技術的な細部や微妙なニュアンスを伝える際に、意図が正確に伝わらず、認識のズレが生じることがあります。さらに深刻なのは、文化的なコミュニケーションスタイルの違いです。日本では「空気を読む」「察する」といった暗黙的なコミュニケーションが一般的ですが、ベトナムではより明示的で直接的なコミュニケーションが好まれます。

また、問題や遅延が発生した際の報告姿勢にも違いがあります。ベトナムでは上司や顧客に対して悪い知らせを伝えることを避ける傾向があり、問題が深刻化するまで報告されないケースがあります。こうした報告文化の違いは、プロジェクト管理上の大きなリスクとなりうるでしょう。

現地パートナー選定・統制の難しさ・ガバナンスの欠如

ベトナムには数千社のIT企業が存在しますが、その規模や能力には大きなばらつきがあります。優良なパートナーを見極めることは容易ではなく、不適切な選定はプロジェクトの失敗に直結します。特に中小規模のベトナム企業では、プロジェクトマネジメントやガバナンス体制が未成熟なケースがあります。

たとえば、進捗管理の方法が確立されていなかったり、品質管理のプロセスが形骸化していたりすることで、成果物の品質が安定しないという問題が生じます。契約内容の解釈をめぐる認識の違いも問題となります。契約書に明記されていない事項について、日本側は「常識的に考えて含まれるべき」と考えても、ベトナム側は「契約にないので対応の義務はない」と主張するケースがあるのです。

技術レベル・マネジメント成熟度のばらつき

ベトナムのIT人材は確かに優秀ですが、経験や技術レベルには大きな差があります。

特に課題となるのが、アーキテクチャ設計やシステム全体を俯瞰した技術判断をおこなえる人材の不足です。個々のコーディングスキルは高くても、非機能要件への配慮やスケーラビリティを考慮した設計、セキュリティ対策などの面で経験不足が露呈することがあります。プロジェクトマネジメントの成熟度も企業によって差が大きく、問題の早期発見ができず、納期遅延や品質低下につながる場合があるでしょう。

契約・知財・データ保護の法的/制度的留意点

ベトナムの法制度は発展途上にあり、知的財産権の保護やデータプライバシーに関する法整備は日本ほど成熟していません。ソースコードや設計書といった知的財産の帰属について、契約で明確に定めておかなければ、後々トラブルに発展するリスクがあります。ベトナムの法律では、明示的な契約がない場合、著作権は作成者(開発会社)に帰属すると解釈される可能性があるのです。

データ保護に関しても慎重な対応が求められます。顧客情報や個人データを含むシステムをオフショアで開発する場合、GDPRや日本の個人情報保護法に準拠した管理体制の構築が必要です。契約書の言語選択も重要な検討事項であり、解釈の違いが生じた際の紛争解決方法や準拠法について、事前に明確にしておくことが不可欠でしょう。

▶︎ベトナムのオフショア開発の失敗原因|ブライセン

ベトナムでオフショア開発を成功させるためのステップ

ベトナムでのオフショア開発を成功させるためのステップについて解説します。

  • 初期準備
  • 現地パートナー/モデルの選定と契約設計
  • 体制構築とプロジェクト管理・品質管理
  • 運用定着・スケーラブル体制への移行

初期準備

オフショア開発の成否は、初期準備の段階でほぼ決まります。まず自社の目的を明確にすることから始めましょう。コスト削減が主目的なのか、開発スピードの向上なのか、それとも特定技術へのアクセスなのか、目的によって適切なアプローチは変わってきます。次に、オフショア開発に適したプロジェクトの選定が重要です。初回のプロジェクトは、要件が明確で、技術的な難易度が高すぎず、期間も3ヶ月から6ヶ月程度の適度な規模のものが理想的でしょう。

社内体制の整備も不可欠な準備です。オフショアチームとの窓口となる担当者を明確にし、その人物がプロジェクト管理や異文化コミュニケーションのスキルを持っているか確認してください。また、ドキュメントの作成基準や開発プロセスの標準化など、オフショアでも理解しやすい形に社内の開発手法を整理しておく必要があります。

現地パートナー/モデルの選定と契約設計

適切なパートナー選定は、オフショア開発成功の最重要要素です。候補企業の選定にあたっては、技術力だけでなく、コミュニケーション能力、実績、財務状況、離職率など、多角的な評価が必要でしょう。可能な限り現地を訪問し、実際のオフィスや開発環境を視察し、エンジニアと直接対話することをお勧めします。

オフショア開発のモデルには、ラボ型(専属チームを確保)、受託型(案件ごとに委託)、BPO型(業務プロセスごと委託)などがあります。自社のニーズや管理体制に応じて、最適なモデルを選択してください。契約設計では、曖昧さを残さないことが鉄則です。成果物の定義、検収基準、納期、知的財産権の帰属、秘密保持義務、契約解除条件など、可能な限り詳細に規定してください。

体制構築とプロジェクト管理・品質管理

効果的なプロジェクト体制の構築には、役割分担の明確化が不可欠です。日本側にはプロダクトオーナーやプロジェクトマネージャーを配置し、ベトナム側にはブリッジSE(日本語と技術の両方に精通した人材)とテクニカルリーダーを配置する体制が一般的でしょう。コミュニケーションルールの確立も重要です。

品質管理においては、レビュープロセスの構築が鍵となります。コードレビュー、設計レビュー、テスト工程の各段階で、日本側が適切に関与できる仕組みを作ってください。初期段階では、ベトナム側の成果物を日本側が詳細にレビューし、品質基準や期待値を具体的に伝えることが重要です。

運用定着・スケーラブル体制への移行

初期プロジェクトが成功したら、次は運用の定着とスケールアップを目指します。プロジェクトの振り返り(レトロスペクティブ)を実施し、うまくいった点と改善が必要な点を明確にしてください。ナレッジの蓄積と共有も、長期的な成功には欠かせません。開発標準やコーディング規約、よくある問題とその解決方法などを文書化し、社内Wikiやナレッジベースとして整理しましょう。

スケールアップの段階では、徐々に案件の規模や複雑度を上げていくことが推奨されます。また、ベトナム側のメンバーに対して、技術トレーニングやビジネス知識の共有を継続的におこない、自律的に問題解決できる能力を育成してください。最終的には、ベトナム拠点が単なる開発センターではなく、技術革新や新規事業の創出にも貢献できる戦略的パートナーとして機能することを目指しましょう。

まとめ

ベトナムでのオフショア開発は、適切に実施すれば、コスト削減と開発リソースの拡充を同時に実現できる有効な戦略です。成長を続けるIT産業、豊富な若手人材、親日的な文化、そして次世代技術への積極的な取り組みにより、ベトナムは日本企業にとって魅力的なパートナーとなっています。

一方で、言語や文化の違い、パートナー選定の難しさ、品質管理の課題など、克服すべき障壁も存在します。これらの課題に対処するためには、十分な初期準備、慎重なパートナー選定、明確な契約設計、そして継続的なコミュニケーションと改善が不可欠です。

成功の鍵は、オフショアを単なるコスト削減手段と捉えるのではなく、長期的なパートナーシップの構築を目指すことにあります。相互理解と信頼関係を築き、両国のチームが協力して価値を創造する体制を構築することで、ベトナムオフショア開発は企業の競争力強化に大きく貢献するはずです。

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